関東近辺の美術館めぐり ~美術・美景・美味を楽しむブログ~

クラインマイスター:16世紀前半ドイツにおける小画面の版画家たち 【国立西洋美術館】

前回ご紹介したベルリン国立美術館展を観た後、西洋美術館の常設も周ったのですが、その際に版画素描室で「クラインマイスター:16世紀前半ドイツにおける小画面の版画家たち」という展示も観てきました。

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【展覧名】
 クラインマイスター:16世紀前半ドイツにおける小画面の版画家たち

【公式サイト】
 http://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2012klein.html

【会場】国立西洋美術館  ★この美術館の記事  ☆周辺のお店
【最寄】上野駅(JR・東京メトロ・京成)


【会期】2012年6月13日(水)~9月17日(月・祝日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 0時間30分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日16時頃です)】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
こちらの版画素描展示室はいつもよりは人が多いように思いましたが、空いていて自分のペースで観ることができました。

さて、今回の展示は同時開催中の「ベルリン国立美術館展」に合わせるようにドイツの版画を題材にしています。版画制作が興隆した16世紀前半のドイツには腕の良い版画家達が活躍していたそうで、その中にはハガキ大(時には切手大)の小さな銅版画を作る人達がいたそうです。今回のタイトルにもある「クライン」とはドイツ語で「小さい」の意味で、職人を意味するマイスターと合わせると何となく意味が分かります。
そのクラインマイスターの作品は17世紀初頭にはインドまで伝播するほどの人気ぶりだったそうで、小さな画面だけでなく聖書、神話、寓意、歴史、農民など様々な主題の面白さも人気の理由だったようです。今回の展示はそうした作品が並んでいましたので、詳しくは気に入った作品を通して振り返ろうと思います。なお、この美術館の常設(この部屋も含む)はルールを守れば写真撮影可能ですので、今回も撮ってきた写真を使って何点かご紹介しようと思います。
 ※掲載等に問題があったらすぐに削除しますのでお知らせください。

まず入口に謎の虫眼鏡。趣旨も分からないうちに借りたのですが、借りて正解でした。
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というのも、作品が本当に小さいので肉眼で観ていると眼精疲労になりかねませんw


[アルブレヒト・アルトドルファー 「人類の堕罪と、キリストの生涯と受難によるその救済」]
まずはクラインマイスターの先駆的存在でドイツルネサンス期の画家・版画家・建築家のアルブレヒト・アルトドルファーという人のコーナーです。この人はクラインマイスターの1世代前の作家で、トランプ大や切手大の作品も作り、クラインマイスターたちに小さな版画を作るきっかけをもたらしたと考えられるそうです。「人類の堕罪と、キリストの生涯と受難によるその救済」というシリーズが並んでいて、1枚の額に4枚も入るくらい小さいです。

左上 アルブレヒト・アルトドルファー 「マリアの誕生をヨアヒムに告げる天使」
右上 アルブレヒト・アルトドルファー 「金門におけるヨアヒムとアンナの邂逅」
左下 アルブレヒト・アルトドルファー 「マリアの宮詣で」
右下 アルブレヒト・アルトドルファー 「受胎告知」
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これらは聖母マリアの誕生物語と、イエスを受胎したことを告知されるシーンまでの4枚。こうして離れて観ると全くわからないかもw 実際近くで観ると陰影や細部の表現まで巧みで驚きます。
この後もキリストの誕生~死~復活~昇天~最後の審判まで細かい作品が並んでいました。

[ゼーバルト・ベーハム、バルテル・ベーハム]
続いてはゼーバルト・ベーハム、バルテル・ベーハムという兄弟のコーナーです。2人はニュルンベルクに生まれた版画家で、ステンドグラスや木版の下絵なども手がけていた兄弟です。宗教改革の急進的一派に加担したり盗作事件などでゼーバルトはフランクフルト、バルテルはミュンヘンを活動拠点にしていたそうで、ゼーバルトは当時最も生産的な作者であった一方、バルテルは数は少ないものの発想力豊かな作品を残したそうです。デューラーやイタリア・ルネサンスの美術を取り入れつつ多彩で斬新な主題を描き、大きな人気を博したそうです。
 参考記事:
  アルブレヒト・デューラー版画・素描展 宗教/肖像/自然 (国立西洋美術館)
  黙示録―デューラー/ルドン (東京藝術大学大学美術館)

ゼーバルト・ベーハム 「キリストとサマリアの女」
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キリスト達ユダヤ人と敵対するサマリアの女性に、水を飲ませて欲しいと言った場面を描いたもの。これだと女性は愛想が良さそうに観えましたが、実際にはキリストの言葉に驚いたようです。

[ゼーバルト・ベーハム 「四福音書記者」]
新約聖書の四福音書の作者たちを描いたシリーズがありました。

左上 ゼーバルト・ベーハム 「聖マタイ」
右上 ゼーバルト・ベーハム 「聖マルコ」
左下 ゼーバルト・ベーハム 「聖ルカ」
右下 ゼーバルト・ベーハム 「聖ヨハネ」
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執筆を助けた天使と共に描かれるマタイ、ライオンと共に描かれたマルコ、犠牲を意味する牡牛を従えるルカ、霊感の豊かさを象徴する鷹と共に描かれたヨハネだそうです。こんなに細かいのにちゃんとそれぞれの特徴を表現しているのは凄い…。

ゼーバルト・ベーハム 「ヨハネの黙示録による像」
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これはヨハネの黙示録に挿絵を入れたもので、左は10章(天使に書物を食べさせられている)で、右は11章(預言をまっとうした証人が獣に殺された後、神に命を授けられて復活し、天に上る。この時大地震が起きる)のエピソードのようです。 特に右はその場面が1枚に収まっているのが凄いです。

ゼーバルト・ベーハム 「ルクレティア」
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前回のご紹介したベルリン国立美術館展の出品作にもありましたが、ルクレティアを題材にした作品は頻出です。胸に短剣が突き刺さってます。

ゼーバルト・ベーハム 「トリトンとネレイス」
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神話の主題もありました。ポセイドンの息子のトリトンと海の精のカップル。筋肉隆々でネレイスも肉感的。

ゼーバルト・ベーハム 「パリスの審判」
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パリスの審判も西洋画ではお馴染みのモチーフです。ヴィーナス、アテナ、ヘラの3人の中で一番美しいのは誰か?という争いの審判役になった牧童のパリス(これだとオッサンみたいですがw)がヴィーナスに勝者の証の黄金の林檎を渡しています。パリスへの賄賂が一番刺さったのがヴィーナスだったから勝ったのではないかと思いますw

[ゼーバルト・ベーハム 「ヘラクレスの十二功業」]
こちらも神話で、ヘラクレスの十二の功業が描かれていますが、一般には十二のうちに数えられない逸話も含まれているようです。(ケンタウロスと戦うヘラクレスなど)
 参考記事:大英博物館 古代ギリシャ展 究極の身体、完全なる美 感想前編(国立西洋美術館)

左上 ゼーバルト・ベーハム 「ケンタウロスと戦うヘラクレス」
右上 ゼーバルト・ベーハム 「ネメアのライオンを殺すヘラクレス」
左下 ゼーバルト・ベーハム 「ヒュドラを退治するヘラクレス」
右下 ゼーバルト・ベーハム 「トロイア人と戦うヘラクレス」
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ライオンもヒュドラも意外と小さいw トロイア人の方が強そうです。(これは通常は十二功業の後の話)

ゼーバルト・ベーハム 「ヘラクレスとカクス」
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踏まれているのはカクスというヘラクレスの牛を盗んだ火を吐く怪物だそうです。緊迫した雰囲気です。

この先には「自由七学芸」という連作の作品もありました。そして連作以外の作品も並びます。

ゼーバルト・ベーハム 「子供と三つの頭蓋骨」
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分かりづらくてすみません。3つの骸骨と左上に子供の寝ている姿が描かれています。右上には落ちきった砂時計もあり、子供もあっという間に老人になって死ぬという儚さを表しているようでした。

ゼーバルト・ベーハム 「高貴で栄光ある女たちの凱旋行進」
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これは横長の作品。これも沢山の人が描きこまれ個性豊かに思えます。凱旋車で恋人の魅力に屈して甲冑を脱ぐ司令官は、愛は争いに優るという寓意が込められているようです。

ゼーバルト・ベーハム 「旗手」
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これは傭兵を描いたものだそうです。ただでさえ小さい作品なのにこの陰影やひだの表現が半端じゃないw

[ゼーバルト・ベーハム 「農民の祝祭(12の月)」]農民の12ヶ月の様子を描いたシリーズもありました。

ゼーバルト・ベーハム 「農民の宴」
ゼーバルト・ベーハム 「農民の喧嘩」
ゼーバルト・ベーハム 「垣根の陰で」
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踊ったり喧嘩したり、キスしたりと感情豊かな農民たちが描かれています。小さい画面にこれだけ物語性を感じるのも凄い…。

この近くにはバグパイプを吹く人の作品が2点程度ありました。

ゼーバルト・ベーハム 「小さな道化」
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道化師がリボンにがんじがらめになっているのかな? このリボンは「私はお前を引き裂いて糞をひってやった」と書いてあるそうです。よく観ると巻き糞みたいなのが道化師の下にありますねw

この近くにはゴブレットや仮面を描いた作品のシリーズもありました。これも恐ろしく精密です。

バルテル・ベーハム 「ユディット」
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ゼーバルトに比べると確かに点数が少なかったバルテルの作品。ユディットも西洋絵画頻出の画題で、敵将の元に寝返ったふりをして酔わせ、首を切り落としてきた女性です。尻に敷いている敵将の身体と、手に持つ頭の位置関係がおかしいことから首が切断されてる感じを受けました。しかし、ここでのユディットは裸婦を描くための口実なのだとか。
クラインマイスターの作品にはたまにエロティックなものもあるようです。


[ゲオルグ・ペンツ]
続いては デューラーの工房で修行し、ニュルンベルクで活躍したゲオルグ・ペンツのコーナーです。ペンツも宗教改革の急進派に加担して追放された身だったそうですが、同じ年には処分を解かれ戻ったそうです。イタリアに二度訪れたことがあるそうで、その影響を示す多様な作品を残したそうです。

ゲオルグ・ペンツ 「偶像崇拝をするソロモン」
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賢帝だったソロモンが年老いて妻や妾にそそのかされて異国の偶像を崇拝している姿で、手に何かを持って座る老人みたいな像を拝んでます。これが神の怒りに触れて王国は衰退し分裂したそうです。

この人は旧約・新約の題材の作品が並んでいました。

[ハインリヒ・アルデグレーファー 「死の力」]
最後はゾーストという地を活動拠点にしたハインリヒ・アルデグレーファーのコーナーです。300点におよぶエングレービングを残し、装飾デザインを得意としたそうです。熱心なプロテスタントだったそうで、作品からもその信条が読み取れるらしく、「死の力」というシリーズでは死に連れ去られるカトリックの聖職者たちが描かれていました。

左上 ハインリヒ・アルデグレーファー 「死と教皇」
右上 ハインリヒ・アルデグレーファー 「死と枢機卿」
左下 ハインリヒ・アルデグレーファー 「死と司教」
右下 ハインリヒ・アルデグレーファー 「死と修道院長」
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王に足に接吻させ神のように振る舞う教皇、免罪符を売る枢機卿、豪華な服を着た司教、でっぷりした修道院長 というようにカトリックの聖職者を批判した内容のようです。特に左下は分かりやすいかな。どれもちょっと死神馴れ馴れしいのが面白いw


ということで、非常に細かく面白い主題の作品が並んでいました。ここまで紹介しておいて今更ですが、今回の展示は写真で観るのと実際に観るのとでは大違いな展示だと思います。ベルリン国立美術館展を観に行かれる方は、是非こちらの展示も虫眼鏡を片手に観てみると面白いと思います。


 参照記事:★この記事を参照している記事


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