関東近辺の美術館めぐり ~美術・美景・美味を楽しむブログ~

ジョルジュ・ルオー 名画の謎 展 【パナソニック 汐留ミュージアム】

前回ご紹介した資生堂ギャラリーの展示を観た後、歩いて新橋のパナソニック 汐留ミュージアムにハシゴして、「ジョルジュ・ルオー 名画の謎 展」を観てきました。行ったのは最終日で、既に終わっているためご紹介を後回しにしていましたが、今後の参考にもなると思いますので記事にしておこうと思います。

P1020054.jpg

【展覧名】
 ジョルジュ・ルオー 名画の謎 展

【公式サイト】
 http://panasonic.co.jp/es/museum/exhibition/12/120407/

【会場】パナソニック 汐留ミュージアム  ★この美術館の記事  ☆周辺のお店
【最寄】JR/東京メトロ 新橋駅  都営大江戸線汐留駅


【会期】2012年4月7日(土)~2012年6月24日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日14時半頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
最終日だったこともあり思ったよりお客さんが多く、盛況でした。

さて、この展示は聖書やサーカスをモチーフにした作品が多く独特の画風を持つジョルジュ・ルオーの個展です。元々この美術館は常設としてルオーの作品を展示していることもあり、見覚えのある作品も結構ありましたが、いつもとちょっと違った切り口の内容となっていました。

まず最初に略歴がありました。ジョルジュ・ルオーは最初、ステンドグラス職人の下で徒弟奉公を続けていましたが1890年の19歳の時に画家となる決心をしてパリの国立高等美術学校(エコール・デ・ボザール)に入学しました。エコール・デ・ボザールではギュスターヴ・モローの指導を受けますが、モローの死と共に学校を去ったようです。そしてその後はアカデミックから遠ざかり、自身の絵画世界に邁進していくことになります。その過程で主題や色は変化していったようで、今回の展示では色、形、調和の3つの観点で章分けされていました。詳しくは気に入った作品と共に章ごとにご紹介しようと思います。


<第1章 色の謎-「青」「金」「黒」の謎を追いかけて>
まず1章は40年間の色への取り組みについてのコーナーで、特に青、金、黒の3色に着目していました。学生時代からの最初期を金、1920年代までを青、1910~20年代の銅版・石版を黒というように分類しています。

[ルオーの青]
まずは青が多く使われた作品が並びます。青が多用された理由はルオーの海への憧れや、中世のステンドグラスへの傾倒にあるのではないかと考えられるそうで、ルオーが14歳の時に父の故郷ブルターニュで観た海への強い衝撃や、15歳でステンドグラス職人に弟子入りした際、古いステンドグラスから受けた深い感銘などが根底にあるようです。

ジョルジュ・ルオー 「ブルターニュの風景」 ★こちらで観られます
深い青色の海を背景に、丘の上に建つ家々を描いた作品です。かなり簡略化されていて、太めの筆跡や強い色彩などは後のルオーらしさを感じるように思います。全体的に落ち着いた青が印象的な作品でした。
なおこの作品にはLEDの照明と一般的な美術館の照明を切り替えるスイッチがありました。切り替えて観ると一般的な照明の方はやや赤みがかった感じに観えました(逆にLEDが青みがかっているのかもしれませんが) 私はどちらかというと一般的な照明のほうが好きですが、作品へのダメージが少ないのはLEDでしょうね。

ジョルジュ・ルオー 「女曲馬師(人形の顔)」
これは1925年の作品で、青を背景に緑の帽子や服を着た大きな目の少女が歯を見せて笑う様子が描かれています。黒く太い輪郭で描かれ、絵の表面はざらついた感じで厚塗りされているので、これぞルオーの画風といった感じでした。無防備な表情でインパクトがあります。

近くにはユビュ関連の作品もありました。
 参考記事:ユビュ 知られざるルオーの素顔 (パナソニック電工 汐留ミュージアム)

[ルオーの金]
続いては少し前の学生時代からのコーナーです。在学中から1900年初頭のルオーは古典的な絵画技法で描いていたそうで、技術の高さは抜きにでていたようです。

ジョルジュ・ルオー 「ゲッセマニ」 ★こちらで観られます
光背を背負ったキリストと、もう1人の人物が対話しているような光景を描いた作品で、背景には岩場のようなものが抽象的に描かれています。黄色い光背をはじめ、全体的に茶~黄色っぽい画面で静かで神聖な雰囲気です。解説によると、これを描いたのはモローの生徒になった頃らしく、キリストの横顔や油彩の上に引かれた細い線描はモローの影響が観られるとのことでした。全体的に幻想的な雰囲気もモローに似た感じを受けました。

ジョルジュ・ルオー 「人物のいる風景」 ★こちらで観られます
これは以前もご紹介しましたが、こちらもモローに師事していた頃の作品です。三日月が浮かぶ夕暮れ時で、右手前にはうっそうとした木々、左下には水辺で水浴している裸体の人物(ニンフ)が5人描かれています。柔らかくぼんやりとモヤが立ち込めるような幻想的な光景で、背景の空の薄っすらとした光の表現が見事でした。後のルオーの画風とは違った印象を受けます。
 参考記事:ルオーと風景 (パナソニック電工 汐留ミュージアム)


[版画の黒]
続いては41~56歳の15年間で描かれた『ミセレーレ』、『ユビュおやじの再生』、『悪の華』などの版画シリーズのコーナーです。

ジョルジュ・ルオー 「『ミセレーレ』57 死に至るまで、しかも十字架の死に至るまで従順なれば」
磔刑にされたキリストを描いた作品で、白黒でざらついた質感に太い輪郭で描かれています。目を閉じ頭には放射状に広がる光があり、黒い十字架を背景にしていることもあって光り輝くように観えます。白黒なのにこの光の強さは凄い…。神聖な雰囲気も感じる作品でした。

ジョルジュ・ルオー 「『ユビュおやじの再生11 バンブーラ踊り』」
真っ黒な肌の人物が白いパンツを履いて踊っている様子で、手が異常に長く描かれています。白黒の対比が強く、見た目のインパクトはシリーズの中でも指折りではないかと思います。強い存在感のある作品でした。

近くには『悪の華』や『回想録』、『伝説的風景』などのシリーズもあり、実際の本もありました。


[カラーバリエーション]
ここは色版・墨版を重ねる様子を見るコーナーです。「秋」という同じタイトルの白黒とカラーの2枚が展示されていて、さらに9枚の色校正の同じ図柄の作品もあります。9枚の内6枚を重ねると完成するようで、指示書もついているようです。残りの3枚は左右逆転した試作のようで、版画の製作工程を伺わせました。

ここには4枚のフィルムを重ねて体験するコーナーもあり、4枚重なると元の絵そっくりになるのが面白かったです。


<第2章 形の謎-イメージの源泉は、なに?>
続いて2章は人体、顔、風景の3つの主題について取り上げたコーナーです。特に色彩鮮やかに変化した1930~40年代の作品が並びます。

[人体の形]
まずは人体のコーナーです。ルオーは1910年代までは正確なデッサンだったそうですが、やがて独特のデフォルメによって長く伸びる腕や丸みを持たせた腹などを描くようになったそうです。また、画面上に額のような縁飾りがついているのが多いのも特徴なのだとか。
ここには特によく描いたサーカスの作品が並んでいました。

ジョルジュ・ルオー 「黄色い道化師」
これは新収蔵品らしく初めて観ました。暗い背景に黄色い服の道化師が描かれていて、右を向くポーズで何か考えているような感じを受けます。全体的にひょろっとしていて、背景のせいかどこか寂しげな雰囲気がありました。

少し行くとサーカスのシリーズです。先ほどの「黄色い道化師」を版画にしたものも並んでいました。どれも版画とは思えないくらい色が強くて驚きます。


[顔の形]
続いては顔をモチーフにした作品のコーナーです。1930年以降、ルオーの人物像は類型化していったそうです。また、群像から離れ単独~3人程度の像が多いそうで、典型的な顔は
 ・アーモンド型に長く引き伸ばされた顔
 ・長く細い鼻
 ・鼻をつなぐゆるやかなアーチ状の眉
 ・小さい口
 ・大きく見開いた両目、もしくは伏目
といった点が挙げられるようです。真正面を向く顔は やがて軽く頷くようになったらしく、これは人間性を強調する効果があるようです。ここにはそうした胸から上の肖像が並んでいました。

ジョルジュ・ルオー 「『ミセレーレ』8 自分の顔をつくらぬ者があろうか?」
これはミセレーレの中の白黒版画で、やや首をかしげて虚ろな目でこちらを見ている帽子の男の像です。痩せこけた感じが苦悩を感じさせました。

ジョルジュ・ルオー 「道化師」
長い楕円に太い輪郭で描かれた道化師の顔です。目を閉じ、鼻は長くて四角い形をしていて、澄ましているような穏やかな表情に見えます。背景は灰色~青緑で、肌色の顔が強い対比となっていました。これも厚塗りでざらついた感じがする作品です。

この辺には「ルオーのピエロをつくろう」という福笑いのようなコーナーもありました。特徴を捉えているパーツが面白かったw


[風景の形]
ルオーは若い頃からセザンヌを崇拝し、絵というのは一種の建築であって、すべての構成要素が互いに関連しているものであると学んだそうです。ルオーの風景画では地平線(水平線)と、樹木や塔の垂直線を基礎として、その前景に人物や物が明快に配置されているそうで、それによって緊密な統一感が生まれているとのことでした。
 参考記事:
  セザンヌ―パリとプロヴァンス 感想前編(国立新美術館)
  セザンヌ―パリとプロヴァンス 感想後編(国立新美術館)
  セザンヌ―パリとプロヴァンス 2回目感想前編(国立新美術館)
  セザンヌ―パリとプロヴァンス 2回目感想後編(国立新美術館)

ジョルジュ・ルオー 「キリストと漁夫たち」
水辺に佇むキリストと沢山の人々が描かれた作品で、空には丸い太陽が浮かびます。遠くに水平線が観え、横に伸びる岩場や舟、雲など水平方向の線が多めです。また、マストや直立する人々など垂直方向の線もありました。この水平・垂直・丸い太陽or月という光景は確かにルオーに多い構図かも? ここにも小さな風景画が何点かあるのですが、同様の傾向を観ることができました。

少し進んだ次の部屋にはルオーと家族、学校時代の写真なども展示されていました。また、『伝説的風景(白黒)』『悪の華(カラー)』『ミセレーレ(白黒)』『受難(カラー)』も何枚か展示されていました。


<第3章 ハーモニーと謎-調和と融合へ>
最後は調和のコーナーです。ルオーは「色、形、ハーモニー、祝福された三位一体よ 観えない目をあけ 聞こえない耳に喜びを与えよ」と語っていたそうで、色・形・調和は画家にとっての原点であり、一生かけて習得すべきものだと言っていたそうです。80歳を過ぎても探求を続け、最晩年まで加筆をし続けた「アトリエ作品」と呼ばれる作品もあるそうで、終盤に展示されています。これはルオーの死後にアトリエに残された作品の総称で、裏にはアトリエ印と次女イザベルのサインがあったそうです。

ジョルジュ・ルオー 「キリスト」 ★こちらで観られます
今回のポスターで、横を向いてうつむいているキリストが描かれています。これはミセレーレの第2作目を油彩画にしたもので、白黒だったものを色彩で表現したようです。周りは薄い青で、背景には港町のようなところに塔が立っている様子が描かれています。キリストは深く瞑想しているような感じで、頭の上には赤い雲がぽわ~んと浮かび、まるでキリストの意識が飛んでいるように思えました。この雲を観ていたら萬鉄五郎の自画像を思い出しました。
 参考記事:岩手県立美術館の案内 (番外編 岩手)

この隣には白黒の「『ミセレーレ』2 イエスは辱しめられ…」(★こちらで観られます)もありました。2つを比べてみると白黒には右下の塔や頭の上の雲が無かったりして結構違いがあるようでした。なお、この塔は聖地を表すそうで、これを加筆することで絵画の完成度を高めたと言えるそうです。

この辺は小さな油彩画並んでいました。

ジョルジュ・ルオー 「冬 人物のいる風景」
小さめの作品で、中央には奥に伸びる道に立つ3人の人物が並んでいます。その奥に丸い屋根の高い塔、その右に黄色い月も浮かんでいます。エメラルドグリーンの背景が美しく、シンメトリーな感じの構図も面白い作品でした。確かに色・形・ハーモニーとは何かがわかりそうですw

103 ジョルジュ・ルオー 「マドレーヌ」
これはここの常設によくあるので観た方も多いかと思います。マグダラのマリアを思わせるマドレーヌという名前の人気女道化師を描いた作品で、縁を白い四角で囲むような感じで、その中に黄色、オレンジ、緑などを使って顔が描かれています。その表情は微笑んでいて、明るい印象を受けました。
解説によると、一見キャンバスに描かれているようで、実は麻布を裏打ちした紙に描かれているそうで、裏面にはイザベラのサインと印も入っていました。これが「アトリエ作品」のようです。


ということで、ルオーを理解するのに良い展示でした。既に終わってしまいましたが、ここは定期的にルオーの展示をやるので、また違った形で再開できる作品も多いかと思います。その際には今回得た知識も鑑賞に役立ちそうです。


おまけ:
今年の1月から「パナソニック電工 汐留ミュージアム」から「パナソニック 汐留ミュージアム」にまた名前が変わったようです。

 参照記事:★この記事を参照している記事


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