関東近辺の美術館めぐり ~美術・美景・美味を楽しむブログ~

かわいい江戸絵画 【府中市美術館】

先週の土曜日に府中市美術館で「かわいい江戸絵画」を観てきました。この展示は前期・後期に期間が分かれていて、私が観たのは後期の内容でした。

P1100494.jpg

【展覧名】
 春の江戸絵画まつり かわいい江戸絵画

【公式サイト】
 http://www.city.fuchu.tokyo.jp/art/kikakuten/kikakuitiran/kawaiiedo/index.html

【会場】府中市美術館
【最寄】京王線府中駅/京王線東府中駅/JR中央線武蔵小金井駅など


【会期】
 前期 2013年3月9日(土)~4月7日(日)
 後期 2013年4月9日(火)~5月6日(月)
  ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日11時頃です)】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
意外と混んでいて場所によっては数人が集まっている程度でした。

さて、今回の展示は「かわいい」をテーマにした日本画が並ぶ内容となっています。日本でかわいい絵が盛んに描かれるようになったのは江戸時代と見受けられるそうで、この展示ではかわいいと映る作品に込められた多彩で豊かな感情を追うという趣旨となっていました。 テーマごとに章分けされていましたので、詳しくは気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<幕開け>
「かわいい」という感情は古来からある感情で、平安時代には「梁塵秘抄」や「枕草子」の中でそうした感情があったと考えられる歌があるようです。しかし、その時代にはかわいい絵は無く、かわいい絵が花開いたのは江戸時代のことのようです。ここでは17世紀から18世紀後半の作品が並んでいました。

1 伊年印 「虎図」
口をへの字にしてやや下の方を見る虎が描かれた水墨画です。「伊年」の印があるので、これは俵屋宗達とその工房の作品と考えられます。ずんぐりとして漫画のような愛嬌のある虎で、太い輪郭ではみ出さんばかりに描かれていました。解説によると、これは元は龍虎で対だったとのことでした。

この近くには俵屋宗達の「狗子図」や尾形光琳の「布袋図」もありました。

10 狩野探信 「猿鶴図」
2幅対の大きな掛け軸で、右隻は松の木とその周りにいる沢山の鶴が描かれ、上空からも鶴が舞い飛んできています。その鶴たちはS字のように配置され、流れるような優美さがあります。一方、左隻は大きな木とそこに群がる猿たちが描かれ、枝から垂れた蔦に10匹くらいの猿がぶら下がっています。木の穴にもギッシリと猿が入っていて、おかしみを感じました。ちょっと多すぎで若干キモかわいい感じですが、生き生きして賑やかな猿たちでした。


<感情の様々>
そもそも「かわいい」という言葉は恥ずかしいという意味から始まったと言われているそうで、中世には自分以外に向ける気持ちとして「かわいそう」に変化したそうです。そしてその後、「愛おしい」「愛らしい」という意味へと広がり、江戸時代に一般化していったようです。意味が変化する一方でこの言葉の根底には哀れみや同情、弱いものや儚いものに対する心の動きがあるようで、ここでは「かわいい」に含まれる心模様をテーマにした作品が並んでいました。

13 伊藤若冲 「鸚鵡図」
豪華な装飾が施された朱色の台の上にとまる白いオウムを描いた作品です。かなり細密な描写で毛並みまで表されていますが、羽は透けて見えています。じっとうつむくような感じで、ぽつんと佇んでいるように見えました。この作品の前には「かわいそう」というキャプションがあり、若冲は見世物として囚われの身となったオウムを哀れんだ詩も書いているそうです。似たような作品はいくつか観たことがありますが、こうした感情面でのアプローチは初めてだったのでちょっと意外でした。

近くには健気なものとしての歌川国芳「坂田怪童丸」などもありました。

[いつくしみ]
23 森狙仙 「茶樹母子猿図」
木の枝の上で子猿を背負った母猿を描いた掛け軸です。子猿は上を見上げていて、その視線の先には昆虫が飛んでいます。母猿は意に介さないような感じですが、何気ない仲睦まじい感じが出ていました。毛並みなどに細密な表現があるのも面白いです。

[おかしさ]
29 森狙仙 「三猿図」
3幅対の作品で、右は頬張るような仕草で口を塞ぐ猿、中央は耳をふさぐ猿と鳥、左は岩の上から水面の月を取ろうとしつつ手で目を覆っている猿が描かれています。これらは3幅で「見ざる言わざる聞かざる」の三猿を示しているようで、猿たちの仕草が可愛らしいです。ほわほわした毛並みや濃淡による表現が繊細で気品があり、月を取る猿も故事になぞらえているなど、かわいいだけでなく技術や機知も感じさせました。

[純真・無垢]
53 西山完瑛 「雪兎図」
部屋の中で赤い着物の女性が、お盆の上に乗った雪で作ったウサギを指さしている様子が描かれた作品です。後ろを振り返って誰かに見せようとしているようで、楽しげな表情をしています。ウサギもちょこんとした感じで可愛らしく、キャプションの通り純真さを感じる作品でした。

[小さなもの、ぽつねんとしたもの]
43 蠣崎波響 「竹に蛙図」
細い竹(というより笹みたいな)の下で上空を見ている蛙が描かれ、その視線の先には蜘蛛がいて、食べようと狙っているようです。蛙の背中には墨の滲み表現が使われ、蛙っぽさが感じられるのが面白いです。静かな雰囲気の作品でした。

この近くには与謝蕪村が扇に描いた作品などもありました。

44 貫名海屋 「馬関真景図巻」
これは山口の下関辺りの風景を描いた巻物です。巻物といっても親指くらいの縦幅しかなく、ミニチュアサイズとなっています。そこにミリ以下の極細の線で風景が描かれているのですが、情緒あふれる雰囲気です。江戸時代にはこうした極小の巻物や雛人形などが作られミニチュアの愛らしさが親しまれたそうですが、かわいいというよりは手先の器用さに驚く作品でした。

[微妙な領域]
56 仙厓義梵 「豊干禅師図」
これは虎に乗った豊干禅師を描いた作品で、かなり大雑把に描かれています。特に虎は子供の落書きみたいに見えますが、豊干禅師の穏やかな顔などは親しみがあるかな。上手いのか下手なのか紙一重ですw


<かわいい形>
続いては形についてのコーナーです。描かれた対象(子供とか猫とか)ではなく、かわいいと感じる形というのがあるそうで、丸・三角・四角、極端に単純化された形、繰り返し、つたない形など、江戸時代には様々なかわいい形の絵が広がりを見せたそうです。
幾何学的造形感覚はリズムの安心感が見るものを無邪気にさせ、「子供の形」もかわいいと感じさせるようです。また、江戸時代に中国から伝わった南画は簡素な描き方にこそ味わいがあるという考え方で、与謝蕪村の俳画のような展開を見せました。一方では円山応挙らが技巧を極めた迫真表現を確立した時代でもあり、そうした技巧的な作品があるからこそ、素朴も輝いて見えるとのことです。ここには「かわいい形」をテーマにした作品が並んでいました。

[幾何学 省略 繰り返し]
66 伊藤若冲 「東方朔図」
水墨の掛け軸で、肩に桃の木を担いだ人物が描かれています。これは東方朔という人物で、桃は西王母から盗んできた不老不死の桃です。顔は簡略化され、量感豊かな衣の表現など、全体的にゆったりした印象を受けます。若冲というと細密描写が有名ですが、水墨はこうした大らかな表現があるのが面白いところです。確かに形の持つかわいさというのも実感できました。

この近くには曾我蕭白や仙崖の作品などもありました。

74 中村芳中 「托鉢図」
杖を持つ老僧を先頭に、S字に並ぶ托鉢僧たちを描いた作品です。簡略化されているものの大勢の僧たちが並んでいて、確かにこれだけ多いと「かわいい」というよりはおかしさを感じるかなw 皆楽しそうな顔をしていてほのぼのした雰囲気がありました。

[子供の形]
80 仙厓義梵 「大黒天図」 ★こちらで観られます
打ち出の小槌を持ち、袋を担いで米俵の上に立つ大黒天が描かれた作品です。こちらも非常に簡略化されていて、2等身くらいのデフォルメでニコニコした表情をしています。ゆるキャラそのものと言った感じで、福が授かれそうな明るい雰囲気の作品となっていました。

この近くには[つたなさの魅力]というコーナーもあり、白隠の作品などもありました。

[素朴をめぐる目]
93 「大津絵 猫と鼠」
これは東海道の大津付近のお土産ものだった絵で、手前にひょうたんが置かれ、その後ろには杯を持って酒を飲む猫と勧めている猫が描かれています。どちらも漫画のような滑稽な雰囲気ですが、これには酒に呑まれるなという戒めがあるらしく、賛にはそれが書かれているようでした。一見すると下手ですが、味わいのある素朴さです。

[絵本]
こちらは河村文鳳の「文鳳麁画」という風俗描写の絵本が並んでいました。当時の暮らしぶりが楽しげに描かれています。


<花開く「かわいい江戸絵画」>
最後は理屈抜きで、かわいい名画を集めたコーナーとなっていました。

[虎の悩ましさ]
111 円山応挙 「虎図」
振り返って首を傾げるような虎が描かれた作品です。ギョロッとした目つきをしていて、口をへの字にしています。威厳もあるように思いますが、何故か全体的には猫みたいな愛嬌があるように見えます。解説によると、江戸時代は虎を実際に見ることだったようですが、応挙はこの絵より後に虎の毛皮を入手して研究を重ねたようです。ところが、それでも応挙の描く虎は可愛らしさがあったとのことでした。恐らくこれと同じく猫の親分みたいな感じかなw 

この隣には同じく毛皮を手に入れていた岸駒の描いた虎図もありました。そちらはリアルで勇ましいので、両者を比べてみると応挙の虎は一層可愛く見えます。

[応挙の子犬 国芳の猫]
121 円山応挙 「雪中竹梅狗子図」
これは2幅対で、右は雪の積もる梅の木の下にいる3匹の子犬が描かれ、左は雪の積もる竹の下にいる2匹の子犬が描かれています。いずれも寸詰まりの体つきがコロコロした感じで、つぶらな目をしていて可愛らしいです。伸びをしたりじゃれあう姿も含めて微笑ましい光景でした。

この隣にも応挙の狗子図がありました。また、長沢蘆雪の「狗児扇面」という扇の作品もとぼけた感じで可愛かったです。

135 歌川国芳 「七婦久人 寿老人」
巻物を広げている女性の傍らで、紙袋に顔を突っ込んで取ろうともがいている猫が描かれた作品です。女性はその姿を観て微笑んでいて、右上には伏せた鹿に腰掛けている寿老人を描いた画中画があります。解説によると、鹿の生えたてのツノのことを袋角と呼ぶそうで、それを見立てにして猫が袋をかぶっているようです。可愛らしさと同時にウィット溢れる国芳らしい作品でした。

150 歌川国芳 「猫のけいこ」
これは団扇型の作品で、着物を着た擬人化された猫が3匹(3人?)、本を広げたり三味線を弾いている様子が描かれています。これは3匹で三味線の稽古をしているようですが、猫が三味線って…w のんびりした感じがありつつ、ちょっと突っ込みたくなる作品でした。

[かわいい名画選]
156 与謝蕪村 「火桶図」
目と口のついた火桶と、その後ろで座って輪になって話し合う5人の男たちが描かれた作品です。これは百物語をしている最中に怪談が無くなり、火桶を燃料の炭団を食べる妖怪とする句を詠んでいる所のようで、手前の火桶は実際に妖怪となってしまったようです。ニヤリとした顔が面白く、憎めない愛嬌のある表情でした。

この辺には6曲1双の長沢蘆雪「群猿図屏風」という屏風作品もありました。また、仙崖のゆる~~~い絵や、若中の鶏、応挙の狗子図などもありました。

伊藤若冲 「河豚と蛙の相撲図」
丸々としたフグとヒキガエルが相撲をしている様子が描かれた作品です。愛嬌がありますが、お互いに毒のあるもの同士で、上部には大雄主人という人の賛があり、「たくましい腕力で戦っているが、争いが止むのはいつの日か。己に勝ち私利私欲から解放され、礼に復するなら天下は安堵」と書かれているそうです。刷毛目を使った表現など若冲ならでは技法も見られ、かわいいだけではなく教訓と技巧も見られる作品となっていました。


ということで様々な「かわいい」江戸絵画を堪能することができました。一口にかわいいと言っても多用な感情が含まれていることも再確認できたのも良かったです。もう終わってしまいましたが、観ていて和む展示でした。


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