関東近辺の美術館めぐり ~美術・美景・美味を楽しむブログ~

夏目漱石の美術世界展 (感想後編)【東京藝術大学大学美術館】

今日は前回の記事に引き続き、東京藝術大学大学美術館の「夏目漱石の美術世界展」の後編をご紹介いたします。前編には漱石の文学作品に登場する絵画も紹介しておりますので、前編を読まれていない方は前編から先にお読み頂けると嬉しいです。

 前編はこちら

P1110558.jpg


まずは概要のおさらいです。

【展覧名】
 夏目漱石の美術世界展

【公式サイト】
 http://www.tokyo-np.co.jp/event/soseki/
 http://www.geidai.ac.jp/museum/exhibit/2013/soseki/soseki_ja.htm

【会場】東京藝術大学大学美術館
【最寄】上野駅(JR・東京メトロ・京成)など

【会期】2013年5月14日(火)~ 7月7日(日) 
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日14時半頃です)】
 混雑_①_2_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
前回は上階(3F)の内容についてご紹介しましたが、今日は残りの下階(地下)の展示について書いていきます。


<第4章 漱石と同時代美術>
漱石は「芸術は自己の表現に始まって自己の表現で終わるものである」という名言を残していて、他人の評価に必要以上に左右されず、徹底して自己に向き合いその苦しみに耐えることを求めていたそうです。その為か、黒田清輝や和田英作ら画壇の重鎮には相当に手厳しく批評する一方で、青木繁や坂本繁二郎といった個性的な若手には好意的な批評をしていたようです。ここには漱石が観て批評した第6回文展の作品や、同時期に訪れた第1回ヒュウザン会(後にフュウザン会)の作品などが展示されていました。

4-1 夏目漱石 「『文展と芸術』原稿」
これは「文展と芸術」という展覧会の批評を行った本の原稿です。先ほどの「芸術は自己の~」の文言が冒頭に書かれていて、漱石の考える芸術のあり方を端的に示しているように思えます。この後に出てくる批評もこの考えに沿っている感じがするので、結構硬い信念だったのかな。

4-7 松岡映丘 「宇治の宮の姫君たち」
これは第6回文展に出品された、源氏物語を題材にした6曲1隻(元は1双)の屏風です。月の浮かぶ貴族の邸宅の廊下で、烏帽子の男性が座ってハラハラと舞う花と月を見ているようです。その背後にはそっと戸を開けてそれを伺う十二単の女性の姿があります。画面には静けさが漂い 詩情溢れる雰囲気で、物語性ともののあはれのようなものを感じさせました。解説によると、漱石の「文展と芸術」では第6回文展の多くの作品について言及しているようですが、触れられなかったものの中には今日では重要作と位置づけられているものも少なくないそうで、この作品もその1つのようです。私にはこれは大和絵の革新に思えるのですが、漱石にはそうは映らなかったのかな? どう考えていたのか知りたいところです…。

4-14 坂本繁二郎 「うすれ日」
広々とした野山を背景に横向きの牛が描かれた作品で、牛はやや頭を下げていて、白黒のぶちがあります。漱石はこれを観て、白黒のぶちは嫌いだし背景にも何の詩興も催さないものの、絵に奥行きがあり、それは牛が寂莫として野原に立っている姿から来ると評したです。さらに、「牛は沈んでいる。もっと鋭く言えば何かを考えている」と言ったそうで、たしかにポツンと静かに佇む様子は何か思案しているように見えるような気がするかな。全体的な色合いは幻想的で、繁二郎らしい作風だと思います。

この少し先には横向きの女性を描いた黒田清輝の作品がありました。これについては品位ある絵としながらも、それ以上のものは感じないと結構厳しい評価のようでした。

4-23 岸田劉生 「画家の妻」 ★こちらで観られます
これは岸田劉生の奥さんを横向きの姿で描いた作品で、胸の前で指をつまんでいるように見えます。細部まで重厚かつ精密に描かれていて、デューラーなどからの影響を感じるかな。解説によると、漱石は岸田劉生らの第1回ヒュウザン会の展示にも足を向けたようですが、そこでの批評は無いとのことでした。これも良い作品だと思うけど、漱石にはどう映ったのかな??
 参考記事:没後80年 岸田劉生 -肖像画をこえて (損保ジャパン東郷青児美術館)

4-10 横山大観 「瀟湘八景」
白い雪の積もった山の下に、釣り竿を持った帽子の人物とお供らしき人が描かれた掛け軸です。どっしりとしてちょっと重い色合いの雪とぽつんとした人影のためかやや寂しげに観えるかな。解説によると、漱石はこれを近代的なものとして褒めていたそうです。大観には好意的のようです。
この作品の隣には当時の展覧会と同じように寺崎広業の同名の作品も展示されていました。


<第5章 親交の画家たち>
続いての5章は同時代の画家たちとの交流についてのコーナーです。漱石は一時期 共同生活していた正岡子規(歌人/文学家)や、早くから親交のあった浅井忠や中村不折などと関わりがあり、漱石の小説の挿絵を描いた樋口五葉とは五葉が東京美術学校にいた時代から親しかったそうです。また、五葉の後に挿絵を担当した津田青楓との出会いがきっかけで自身も絵を描くようになるなど、周りには多くの芸術家がいたようです。ここにはそうした周辺の人物の作品が紹介されていました。

5-2 浅井忠 「収穫」 ★こちらで観られます
農作業をする3人の男女を描いた作品で、背景はたくさんの積まれた藁が描かれ全体的に黄土色っぽい画面となっています。重厚な印象で似た色が多いですが、巧みな描写によって陰影が表され、黙々と働く姿からは農夫たちへの敬意が込められているように思えました。解説によると、漱石はロンドン留学中にパリにいた浅井忠とお互いの下宿を行き来する仲だったそうです。後の「三四郎」には浅井忠をモデルにした深見画伯として登場するとのことでした。

この近くには橋口五葉の作品が並び、雑誌「ホトトギス」の表紙なども手がけているようでした。

5-8 橋口五葉 「孔雀と印度女」 ★こちらで観られます
大きな油彩の屏風?作品で、金地を背景に石のベンチのような所に腰掛ける 片胸を顕にしたサリーの女性が描かれています。その近くには2羽の孔雀も描かれていて、装飾的な羽は緻密に表現されています。これは想像上の風景とのことですが、写実的で陰影が強く、洋画のような日本画のような独特な作風となっていました。ちょっと濃厚な感じがするかな。解説によると、これは1907年の東京勧業博覧会で2等となったとのことです。

5-23 津田青楓 「少女(夏目愛子像)」
これは漱石の4女の肖像画で、赤いドレスを着た黒髪の姿で描かれています。頬が赤くニコニコしていて親しみが感じられ、やや素朴で簡素な感じの画風となっていました。解説によると、漱石は津田を色彩の感じの豊富な人と褒める一方で、自分の好きではない色をごてごてと使うのには辟易するとも批判していたようです。(この作品自体は漱石の死後に描かれているので、この絵について言っているわけではなさそうです)
この近くには津田の南画のような作品もありました。


<第6章 漱石自筆の作品>
続いては漱石自身による絵画のコーナーです。漱石は明治末年にフランス帰りの津田青楓と付き合うようになってから自らも絵を描くようになったそうで、生涯に1枚で良いから人が見てありがたい心持ちのするような絵を描いてみたいと言っていたそうです。一方で、文展の日本画みたいなものは書きたくないとも言っていたようです。ここには漱石の作品が並び、主に南画風の作風となっていました。

6-8 夏目漱石 「一路万松図」
これは掛け軸で、ジグザグの道と両脇の松が縦に伸び、その周りは雲海のようになっている光景が描かれています。やや素朴な印象を受けますが、丁寧に細かく描かれていて南画のような画風です。解説によると、漱石はこの絵を自らしきりに感心していたようで、お気に入りの作品だったようです。テクニック的なものは感じませんが、素人としては結構上手いのではないかと思います。

6-13 夏目漱石 「竹図」
これは竹を描いた水墨の掛け軸で、松山藩の蔵沢という江戸時代の画家を手本に描いているそうです。竹というよりは骨の継ぎ目のような感じに見えましたが、濃淡で表現するなど作品へのこだわりや美意識を感じさせました。

この近くには漱石による書もありました。字は流麗で達筆な印象を受けます。また、「こころ」の原稿などもありました。


<第7章 装幀と挿画>
最後の章は装幀と挿絵についてのコーナーです。漱石の本の装幀は主に3つの時期に分けられるそうで、デビュー作の「吾輩は猫である」から「門」までは橋口五葉、その後の「こころ」と「硝子戸の中」は漱石自身による装幀、「道草」や「明暗」など晩年の作品は津田青楓が手がけたようです。それぞれ作風は異なり、まず最初の五葉は意匠も作風も変化に富んでいるようですが、調和と雅趣を失わず、装幀の世界に一時代を画したそうです。漱石自身の装幀も名装幀と言えるものらしく、青楓の装幀は奇をてらうことのない地味ながら品の良い装幀となっているそうです。ここにはそうした装幀が施された本や原画が並んでいました。

7-3 橋口五葉 「『吾輩ハ猫デアル』下編 装幀画稿」 ★こちらで観られます
これは「吾輩は猫である」の装幀の下絵です。猫というよりは黒い犬みたいに見えるような…w 伝統的な漢字の字体とアール・ヌーヴォーを思わせる花の装飾が交じり合い、瀟洒な印象の装幀となっていました。これは当時話題となったのも頷ける出来栄えです。

この辺には橋口五葉が手がけた装幀の本が並んでいました。華やかさと落ち着きが同居しているものが多く、好みです。「虞美人草」や「吾輩は猫である」の画稿もたくさん並び、入念な準備の様子が伺えました。

7-27 夏目漱石 「『こゝろ』装幀原画」
これは「こころ」の装幀の原画で、唐時代の石碑の文字が表紙を飾っています。その文字の持つ荘厳さや侘びた感じが素晴らしく、色合いと共に名著に相応しいものとなっていました。これは確かに傑作と言える装幀です。

展覧会の最後には漱石のデスマスクも展示されていました。


ということで、夏目漱石と美術の関わりについて詳しく知ることができる展示でした。本当に美術に造形が深かったことが伺われ、独特の美意識を垣間見ることができたと思います。もう終わってしまいましたが、参考になりました。久々に漱石の小説が読みたくなったかなw


 参照記事:★この記事を参照している記事
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