関東近辺の美術館めぐり ~美術・美景・美味を楽しむブログ~

ぬぐ絵画-日本のヌード 1880-1945 【東京国立近代美術館】

昨年の最後の日曜日に、東京国立近代美術館で「ぬぐ絵画-日本のヌード 1880-1945」を観てきました。

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【展覧名】
 ぬぐ絵画-日本のヌード 1880-1945

【公式サイト】
 http://www.momat.go.jp/Honkan/Undressing_Paintings/index.html
 http://www.momat.go.jp/Honkan/Undressing_Paintings/highlight/index.html

【会場】東京国立近代美術館  ★この美術館の記事  ☆周辺のお店
【最寄】東京メトロ東西線 竹橋駅
【会期】2011年11月15日(火)~2012年1月15日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間00分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日15時頃です)】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
お客さんは結構いましたが、大きめの作品もあるので混んでいる感じはなく、ゆっくりと見ることができました。

さて、今回の展示はタイトルの通り、裸体を描いた人物画がテーマとなっていて、1880年~1945年頃の近代日本の巨匠達の作品が並んでいました。大きく3つの章に分かれていましたので、詳しくは各章ごとにご紹介しようと思います。


<Ⅰ はだかを作る>
まずは裸を描くという風習がイタリアやフランスから伝わった頃のコーナーです。最初は世間では猥褻なものと捉えられた為、その見方を否定するような理想的な美しさで人間を越えた存在のような裸体が多く描かれたようです。

[Ⅰ-1 入浴と留学]
最初のコーナーには銭湯を描いた作品が数点あります。中にはジョルジュ・ビゴーの描いた作品などもありました。

狩野芳崖 「観音/下図」
空を飛ぶ観音などを描いた画帳で、これは「悲母観音」の為の製作準備の作品と考えられるそうです。狩野芳崖はフェノロサと出会ったのをきっかけに、ヨーロッパ絵画の研究を行い、この作品でも身体の中心に縦軸を、肩と腰骨などの位置に横軸を描くなどしているようです。解説によると下半身は長めで太いとのことでしたが、確かにその通りに見えました。翼が生えていて天使みたいな感じもします。
 参考記事:コレクションの誕生、成長、変容―藝大美術館所蔵品選― (東京藝術大学大学美術館)

この近くにあった百武兼行の「臥裸婦」も良かったです。

[Ⅰ-2 はだかの教育]
こちらの小コーナーは日本人画学生が日本やヨーロッパの教育機関で描いた裸の素描のコースです。

工部美術学校生徒 「男裸体」「トルソー」
素描で、手本となる教材を模写した作品が数点ならんでいました。まず輪郭を作って、陰影をつけていくやり方で、いずれも写実的で身体の質感が感じられるように思いました。ただ、確かに教科書的でちょっと動きがないかな。
この辺には白黒写真のように精密な素描が並んでいました。

[Ⅰ-3 黒田清輝とはだか]
続いては黒田清輝のコーナーです。黒田清輝は「人間の裸を描くことこそ美術の王道」とするフランス流の考えを持ち帰りました。当時、卑猥や滑稽と捉える日本の観客や警察に抵抗して、裸の作品を発表し続けたのですが、所謂「腰巻事件」(1901年)と呼ばれ事件もおきています。これは「裸婦婦人像」を白馬会第6回展に出した際、腰から下あたりを布で覆って展示されたというものです。この頃の考えとしては性器が描いてあったらアウトみたいな感じだったらしいですが、実際にはその辺は曖昧に描かれています。そもそもそういう目で見てる時点で黒田の目指すものと世間は大きく乖離していたんでしょうね…。
 参考記事:
  近代日本洋画の巨匠 黒田清輝展 (岩手県立美術館)
  黒田記念館の案内 (2010年11月)

黒田清輝 「花野」
これは以前ご紹介しましたが、大きめの作品で、野原の3人の裸婦が描かれています。俯せになって肘をついて寝そべる女性、背を向けて座る女性、前かがみで話をしているような女性が描かれ、淡くてぼんやりした雰囲気です。清楚で印象派とアカデミズムの良いところが合わさったような感じを受けました。

この辺にはこの作品の画稿と、「朝妝図」という日本初の裸婦油彩のパネル、それを観て驚く日本人達を描いたジョルジュ・ビゴーの「日本におけるショッキング」という作品もありました。口を開けて驚いたり顔を隠して恥ずかしそうな女性など、ショックを受けている様子が伝わります。
ヨーロッパでは理想化され、現実から離れた裸を見るにあたって、エロティックな下心のような現実的な関心をすべて捨てて純粋に美を感じ取るという鑑賞をしていましたが、日本の当時はエロティックな関心を示したり、冗談を言いながら観ていたようです。黒田清輝はその鑑賞態度も改めようと教えていたようです。

このコーナーには腰巻事件の「裸体婦人像」や黒田清輝の代表作「智・感・情」も展示されています。

ラファエル・コラン 「静寂」
黒田清輝の師匠ラファエル・コランの作品で、木に肘をついて立つ布をかけた裸婦像です。清らかで透き通るような肌で、こちらをじっと見る目は何かを訴えるような感じでした。理想化された女性美といった感じでした。

この辺にはコランの「花月(フロレアル)」や、黒田清輝の「野辺」(ポーラ美術館所蔵)もありました。「野辺」はこの後色々な作品と比較されるので、よく観ておくと良いかと思います。
 参考記事:
  フランス絵画の19世紀 美をめぐる100年のドラマ (横浜美術館)
  バルビゾンからの贈りもの~至高なる風景の輝き (府中市美術館)
  ポーラ美術館の常設


<Ⅱ はだかを壊す>
続いては黒田清輝の教え子の世代です。この世代は黒田清輝たちが排除したエロティックなものを全面的に画面に出すなどの変化があるようです。ここは萬鉄五郎、梅原龍三郎、村山槐多、古賀春江、熊谷守一などの作品が中心となっていました。

[Ⅱ-1 萬鉄五郎とはだか]
まずは萬鉄五郎のコーナーです。このコーナーの冒頭に萬鉄五郎の東京美術学校時代の習作が並んでいるのですが、当初は人体描写のカリキュラムを順調にこなしていたようです。しかし、卒業制作の「裸体美人」で黒田流に反旗を翻し、その後様々な作風に変化していきます。ここにはその変遷が分かるような作品も並んでいました。

萬鉄五郎 「裸体美人」
これが卒業制作の作品で、妻が野原で寝転んでいる姿を描いています。赤い腰巻をつけているところや女性を縦に描くところは黒田の「野辺」に共通するようですが、力強い色合いで描かれ、腋毛まで描きこまれているのは萬鉄五郎の制作を駆り立てたエロティックなポイントに目印の役割と考えられるそうです。また、近くにはこの作品のための素描や習作もあるのですが、そこには対角線上に寝ているようでまだ縦にはなっていませんでした。この作品は何度も観ていますが、こうして黒田の作品や習作などと比べてみると、この作品の位置づけや当時の考えがわかるようでした。
 参考記事:東京国立近代美術館の案内 (2009年12月)

この辺には「もたれて立つ人」などもあり、様々な画風の人体描写が並びます。

萬鉄五郎 「羅布かづく人」
単純化され太い輪郭で描かれた裸婦です。顔は描かれず体型もロボットのように丸と線を使って描かれています。キュビスム的な感じがするかな。ここまで来ると裸婦という感じがしません。

[Ⅱ-2 恋するはだか]
1910年代半ば頃には恋や性欲を包み隠さず画面に描くようになったようです。美術の教育機関では距離をとって体全体の釣り合いを捉えることを教えていたようですが、ここには画面一杯にクローズアップされた作品が並んでいました。

中村彝 「少女裸像」
こちらを向いて微笑むソファに腰掛けた裸婦像で、肉感的で陰影のついた身体となっています。背景のソファやカーテンも装飾的でややマティスを彷彿とするかな。解説によるとこれは中村の恋人らしく当時15歳の女学生だったそうで、博覧会に出品された際にモデルの通う学校から撤去の依頼があったようですが、問題とされなかったそうです。もう時代が裸婦を許容していたことが伺えるエピソードでした。

梅原龍三郎 「ナルシス」 ★こちらで観られます
椅子に座って足元の洗面器を見る若い男性の裸体を描いた作品です。頬杖をついて悩んでいるように見えましたが、自分に惚れているナルシスの図像だそうで、実は自分の画に恋する梅原自身の精神的な自画像だそうです。濃い色彩でタッチが早そうに見えると共に、師のルノワールからの影響を感じさせました。
 参考記事:東京国立近代美術館の案内 (2010年04月)

[Ⅱ-3 古賀春江とはだか・熊谷守一とはだか]
続いては古賀春江と熊谷守一のコーナーです。古賀春江は頭を下に足を上にして横たわる逆立ちのポーズをよく描いていたそうで、ここにも展示されています。また、熊谷守一は学生の頃に列車に轢かれた女性の亡骸を目撃し、以後 地面に横たわる女性という主題を幾度となく描いているそうです。

古賀春江 「鳥籠」
鳥かごに入った裸婦と謎の機械が描かれたシュールな作品です。機械は円と柱のようなものがあり人体を簡略化させたようにも見えるかな。意味はわかりませんが、独特のシュールさで夢の中のような感じでした。

古賀春江 「涯しなき逃避」
横になって片足を大きく上げ、L字に足を開くポーズの女性を簡略化したような作品です。背景は暗く、海に船が浮かぶような感じかな。解説では足を開いて性器を見せているように見えるとのことでしたが、かなり簡略化されシュールなので性というのは最早感じませんでした。
この近くには習作もありました。

熊谷守一 「夜」 ★こちらで観られます
暗い背景で横になっている女性の姿らしきものが描かれた作品です。抽象的で闇に溶けこむような感じなので裸婦なのかもいまいちハッキリしません。ただ、肉塊のような紫のものが死を感じさせます。この隣には「轢死」という列車にひかれた女性を描いた作品の写真もあったのですが、これと似た構図で同様の雰囲気を感じさせました。また、この作品は黒田清輝の「野辺」の裸婦が縦に描かれているのに対して横にすることで、生の構図から死の構図としているとのことでした。

この辺には熊谷の作品が並び、轢死の下絵や画帳などもありました。


<Ⅲ もう一度、はだかを作る>
1920~1940年にかけて、前の時代に解体された裸をもう一度色と形によって秩序づけて組立て直す動きが現れたそうです。この中で2つのことが起きたらしく、1つは自然の中の女性の裸という主題が消えて、屋内 特にアトリエで書かれるようになったようです。そしてもう1つは猥褻さを払拭するため裸を直立させるというやり方が変化したそうです。 また、「裸婦」という言葉は梅原龍三郎が発明して流行らせたと説明されていました。

梅原龍三郎 「横臥裸婦」
横たわって肘を上げる裸婦像で、これは梅原がパリに渡ってすぐに描いた作品だそうです。これを描いた頃、日本では横たわるポーズはエロティックと思われ描くのは無理な時代だったようですが、この作品には性器の周りの毛まで描かれています。全体的にぼんやりした感じで、青や緑などを使ってやや暗めに描かれていました。あまりその後の梅原の作風を感じさせないように思います。

小出楢重 「裸女結髪」
後ろ姿で髪を結っている裸体の女性を描いた作品です。おしりまで伸びた黒髪で、極端なくらい身体が逆二等辺三角形をしていて、ちょっとバランスがおかしいようにも見えます。この隣にはマティスの「髪結い」という作品の写真があったのですが、その構図はこの絵と全く同じでした。解説によると、当時からマティスはよく知られていたので、マティスに倣って造形上の課題を解決しようとしていたのではないかとのことでした。構図は似てるけと形状には違いがある気がします。

近くにも同様に、マティスの作品そっくりの構図の作品が並んでいました。

安井曽太郎 「水浴裸婦」
森の中の泉で水浴をする4人の裸婦を描いた作品です。自然の中の裸婦は消えていったはずでは…とさっきの解説は何だったんだ?と思いましたが、これはアトリエで日本人のモデルを使って描いたものを再構成した姿だそうです。緑がかった影の色合いや背景などからセザンヌの水浴を思い起こすように思いました。


ということで、日本のヌードの歴史についてよく分かる内容となっていました。今ではすっかりお馴染みの主題ですが、当時は抵抗されていたのを先人の努力でここまできたんだなということが実感できます。もうすぐ終わってしまいますが、面白い展示です。

おまけ:
特設サイトの変な鬼のキャラクター?のコメントが2ちゃん的で笑えますw 中二病とか一般の人がわかるのかなw

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